組織の生産性向上の要は、イケてる施策を打ちまくる…のではなく、不要な行為を極力減らし、生産的な時間を最大化することだ。
(ここでバシッと「企業の無駄な行為ベスト5はこれだ!」と掲げられたらいいが、日本語のWeb上にはそれに関する定量的な根拠が無いようだ。みんな生産性を定義して終わっている。)
無駄な時間を減らす際、良質なコミュニケーションが取れる環境を整えることは、不毛な時間を減らすことと、良いコミュニケーションは良い発想につながることから、生産性が倍増することが期待される。
手前味噌な話になって恐縮だが、弊社にはより効果的なコミュニケーションの取り方を定義した「コミュニケーションガイドライン」と、その中でも大きなウェイトを占める会議のやり方を定義した「ミーティングガイドライン」が制定されている。いずれも弊社のスーパーエンジニアが、前職のGoogle時代の働き方に基づいて定めたものだ。
私が前職の日系大企業から現職に転職して、最初に感動したのがこのコミュニケーションガイドラインの存在だった。だってコミュニケーションの取り方のガイドラインなんて、同質的で慣習を踏襲するだけの日本企業には発想すらしようがないじゃないですか(マナー研修はあったけどねw)。
今回はこのコミュニケーションガイドラインの、次回はミーティングガイドラインの、それぞれ要旨を紹介する。なお本文は英語だがGithubで公開されている。
コミュニケーションガイドライン要約
コミュニケーションガイドラインの目的は、生産性、および関わる人の幸福を最大化するための、効率的なコミュニケーションの取り方のベストプラクティスをまとめることである。
大方針
記録されていること
重要な意思決定やアクションアイテムが不在にならないように、議事録やアジェンダなど、コミュニケーションは可能な限り何らかの形で記録されていること。
透明性
従業員に幅広い情報へのアクセス権を与えることで、従業員は能動的に他のチームの意思決定を知ることができる。逆に言うと、アクセスを制限したほうがいいコミュニケーションは、採用および資金調達に関わること程度である。
目的が明確であること
透明性が重要な反面、コミュニケーションは関係者に過不足なく伝わることが重要である。関係者を必要最低限に絞ることと、透明性を確保することは、良いコミュニケーションを取る上で相反する課題である。
情報をマイペースに受け取れること
即答が必要な情報は、実際のところほとんど無い。本当は必要ないにもかかわらず、ある期限内にレスポンスを強要するよりも、情報の受信者が与えられた情報をマイペースに処理できる方が望ましい。
ツールの使い方
- 基本的に、何か議論する必要があればまずはJIRA(弊社で採用しているチケット形式のプロジェクト管理ツール)を使う。
- その他の、1分以内に完了する必要があるトピックについてのみ、直接話すか、1対1のチャットツールを使う。
- それ以外の全てのケースでは、メールを使う。
メーリングリスト
- ファイルのアクセス権の設定等、すべての組織に関する設定は、組織図と同様の構造を持つのメーリングリストで管理する。個人のメールアドレスは、最小単位のチームにのみ直接追加され、上位のメーリングリストに直接追加されることがないようにする。
- 例えば、田中さんと佐藤さんが所属する営業チーム(sales@examp.le)と、鈴木さんと高橋さんが所属するマーケティングチーム(marketing@examp.le)があったとする。更にこの2つのチームがビジネスユニット(business@examp.le)を構成する場合、business@のメンバーにはtanaka@やsuzuki@を直接追加するのではなく、sales@とmarketing@を追加する。
- 議事録を適切に展開して、社内の議論の透明性を確保するため、議事録を展開するための、会社横断的なメンバーが入ったメーリングリスト(meeting-minutes@)を整備する。例えば営業チームの定例ミーティングは、sales@とmeeting-minutes@をメンバーに持つsales-minutes@に展開される。
メール
- 全てのコミュニケーションには目的があるため、Toにはそのトピックを話したい相手の人やチームを指定する。この際、将来の検索性のために、CCに関連するチームのメーリングリストを入れておくことが推奨される。
- 逆に、もしメールがある個人に対してのみ送られるのであれば、まずは直接話したほうが早い。
- メールは形式張っている必要はない。件名に1行だけ書かれた、本文白紙のメールでも十分機能する。
プロジェクト管理ツールの良い使われ方
- チーム間、よくあるのはエンジニアチーム以外からエンジニアチームへのプロダクト改善に関する要望を議論すること。
- バグレポート。誰も責めないので、疑わしいと思ったらとにかくステータスに「バグ」と設定したチケットで報告すること。
- 極度に複雑な問題を解決したい場合、長文を書いたチケットを作成するより、ミーティングを開催し、その議事録へのリンクをチケットに紐付けた方が効率がいい。
- 全てのチケットの優先度を適切に設定すること。チケットの優先度が仮に、緊急、重要度高、中、低の4段階あったとき、「重要度高」以上の優先度は期日がはっきり決まっている場合にのみ使用すること。
チャットツール
- チャットツールは1分以内のレスポンスが欲しい場合にのみ使用すること。なぜなら、チャットツールは情報管理に向いておらず、放っておくと読まれることのない数多くのスレッドの乱立につながるから。
- チャットツールのメインの使われ方は、1対1の会話の補助的なものである。例えば対面で話している際にちょっとリンクを共有したいときや、諸々のちょっとした会話など。
- 特に全体への通知をチャットツールで行うことは推奨されない。すぐに流れてしまうため。
共有フォルダ
- 共有フォルダへのアクセス権の設定は、前述のメーリングリスト単位で行われる。個人単位でアクセス権設定を行うのは一貫性がなく、管理の効率が悪い。
- Google driveには「編集」「コメント」「閲覧のみ」の3種類のアクセス権設定がある。目的に応じて、担当チームに編集権限、関連チームにコメント権限を与えることで、透明性を保ちつつ、誤ってファイルを編集してしまう事故を防止することができる。
運用上の気付き
以降は私がこのコミュニケーションガイドラインに沿って業務をしている上での気づきです。
- 前提として、弊社の規模は30人弱である。ただしこのガイドラインは、ある程度大きな組織でも機能するものと思う。
- このコミュニケーションガイドラインは、だいぶ実務レベルのルールを設定している。当然のことながらこのガイドラインの前提として、意思決定者/プロセスが明確になっていること。
- あらゆる議論に何らかの議事録が残っているため、「あの件どうなってる?」みたいな話をする際、互いの手元に何らかの共通の論拠が記録として残っている。このため、言った言わないの不毛な議論が減る。これをうまく使えたやつが議論をハンドリングできる。
- この反面、基本的には社内すべての議事録が回ってくるので、すべての議事録に目を通すのは不可能。議事録の送付はあくまで後からの検索性のためである。必要なことは直接話すのがとにかく早い。
- このガイドラインの前提になっている、G SuiteとJIRAが素晴らしい。私はWordの見出しを使いこなせないおじさんが作る文章が蔓延する職場から転職したので、リアルタイムで文章編集/共有できるGoogle docsは便利なことこの上ない。
- 会社としてスラックを使わなくなった。 理由は、チャットツールの項に書いたように、誰も読まないスレッドが乱立するから。